モントリオール若葉マーク(4)初雪
モントリオールの人間は失礼だと聞いてきた。モントリオールはフランス系の人達がしめているという。フランス人は誇り高く尊大であると、100%フランス系カナダ人である元夫も言っていた。確かに無礼な彼が自慢気にそう言うと、すごく納得してしまった。だから一応、モントリオールという都会で暮らす人々の、そっけなさや他人に対する無関心を、不安と共に覚悟はしていた。
来てみると、モントリオール人の親切さと根気のよさが、その私の不安と覚悟の量をあっさりと超えて、拍子抜けした気分になったくらいだ。知らない人も、すぐに仲良くなった人達も、一つ聞けば125%の答えをくれる。
若いとき、バックパックひとつで初めての国を一人でフラフラしながら、何の不安もなかった。この年になって、誰も知る人のいない、カナダの中でも異国と呼ばれるケベック州へやってきたとき、心の底では期待どころか恐怖で震えあがっていたのだ。でも1ヶ月が過ぎた頃には、この未知の土地で、新しい良い知り合い達がすでに何人かできていた。私の恐怖心はかなり縮んだ。
モントリオールの人達は失礼ではなくて、はっきりしているのだと思う。自分も含めて、それぞれの人の価値観や選択を尊重する。自己本位というより、個人主義の方が、ここのフランス系住民を飾る言葉にむいている。
カウボーイ&カウガールの街カルガリーから来た私には、モントリオールのファッションがとっても粋にうつった。でも自分のワードローブがかなり心配だ。一応選りすぐって持ってきた服達だが、はっきり言って次元が違う。カルガリーでは逆に、日本から持ってきた私の衣装はあまりに浮きすぎて、ほとんどボツになったのだが。
そういえば、昔初めてカルガリー空港に降り立った時、ミルクの腐ったようなにおいがした。それがどこに行ってもつきまとい、気分が悪くて、最初の10日間はほとんど寝込んでしまったのだった。よそから来た者にしかにおわない、その土地特有のにおいだ。
モントリオールには、車で徐々に近寄って慣れて来たので、空港に突然降り立った時のような、特別なにおいはなかった。が、道を歩くとちょくちょくマリワナのにおいがしてくる。モントリオール初めての夜も、どこからともなくにおってきて、ここでは合法なのかなと思ったくらいだ。このにおいは、土地に慣れてくるとにおわなくなる類ではないが、私にとってはモントリオールに着いた時のにおいだ。10日間寝込むこともなかった。
深く考えず、特に計画も立てずにモントリオールまで来て、着いてからも、ほとんど行き当たりばったりで行動している観がある。でもそういう時の方が、直感の導きに、より忠実にしたがっているものなのだ。
10月のある夜、家への帰り道、初雪が降っていた。長い間苦手だった冬の気配の象徴に、ただきれいとみとれる自分がそこにいて、モントリオールに来てよかったと思った。
ライター:An Kanata