モントリオール若葉マーク(15)睾丸が待てなくて
モントリオールの普通のスーパーで売られているお肉の種類には、何度もびっくりさせられる。豚の鼻だけが半ダースとか、仔牛の舌が丸ごととか、パックに入って、普通にカウンターに並んでいるのだ。脳みそを初めて見たときは、ギョッと引きながらも、何の動物の脳みそなのかラベルを読んだら、仔牛の脳みそで、お猿でなくて妙にホッとした。
私はカナダに移住してから、少しずつ動物のお肉も食べるようになったが、元来は積極的な肉食ではない。鼻も舌も脳みそも、試食してみたいなどというアイデアは、頭をかすめもしなかった。
モントリオールにO.NOIR(オ・ノアール)という店内が真っ暗なレストランがある。好奇心に駆られて女4人でディナーに行ったとき、自分の手さえ見えない真っ暗な中で、赤ワインを飲みながらゴハンを食べるという、素晴らしい経験をした。その時私は、主菜にお任せメニューを選んだのだが、出された物を臭っても食べても、何のお肉かどうしてもわからない。同席の友達の一人に味見をしてもらって、仔牛のお肉である事が判明した。
動物虐待お肉の代表格とされている仔牛は、今まで食べたことがなかったので、味を知らなかったのだ。真っ暗な中でそれとは知らずに食べなければ、一生口にする事はなかったかもしれない。その時から、動物を食べる罪悪感より、初味見に対する好奇心の方が、私の中で幅を利かせ始めた。
ある日、アラブ系のスーパーのお肉セクションに、丸い塊が二つ、パックに入って並んでいるのに気が付いた。カウンターの中のおじさんが、「羊の睾丸だよ、精が出るよ。」と私に意味ありげに笑う。さすがに一人で睾丸を試す勇気はなく、近い将来クリスティンにお料理してもらって、一緒に食べる約束をしたが、まだその試食の日は来ていない。
今回急にモントリオールの食事情を書くことになり、睾丸を食する日まで待てない。一人でも無難に調理・試食できそうな、見た目は鶏肉に似ているウサギのお肉の切り身を買って来た。新ネタの味見が目的なので、そのままオーブンで焼いて、さて試食。フム。味は鶏肉とはほど遠い。鶏は鳥類で、ウサギは哺乳類だっけな? と、ついウサギを思い浮かべてしまうと、罪悪感が蘇り、病は気からの典型的な私は、気分が悪くなってしまった。
最近一人酒は得意としているが、一人ウサギは無謀だった。楽しみにしていた羊の睾丸も、しばらく先に延期しよう。
ライター:An Kanata